日本大学医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野

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ICU感染ラウンド

ICU INFECTIONS ROUND

ICU感染症ラウンド 第55回 第56回 第57回

第55回:2018年9月5日・第56回:2018年9月11日・第57回:2018年9月25日

Clostridium difficile Infection の原則と最新の知見

今回のテーマに関して、一つキーセンテンスを。最後まで読んで頂ければ幸いです。

 

「一番大切なことは、一番大切なことを、一番大切にすることである。」

 

 

はじめに余談から

今回は、最近新しい治療薬も出たClostridium difficile  Infection (CDI)の治療についてです。薬剤師さんにも記載いただきました。CDっていっぱいでてきますが、コンパクトディスクじゃありませんよ。もはやCDが売れない時代になっていますが、いつかレコードのようにCDが売られなくなる日が来るのでしょうか…。個人的にはCD好きで、車ではCDを聞くことも結構あります。入れておけばリピートで聞けるのが魅力ですし、レトロな感じも好きです。勿論、Bluetoothも使えますよ!(とわざわざ言うあたりが危険…)

 

 

キーポイント

ICUで重症化することもあるCD感染症ですが、
① 発症予防
② 接触感染予防(流水による手洗い)
③ 治療選択肢
この3つを抑えることが重要です。主に最新の治療選択肢を踏まえ、まとめました。

 

 

近年の疫学

ICU患者で下痢は最も一般的な症状の1つであり、15-38%が少なくとも1回の下痢を起こします1、2、3)。多くは非感染性であり、経腸栄養剤の使用、緩下剤の使用、消化管疾患の既往、薬剤性、など色々あります。実際の下痢の鑑別にはこの辺りを考える必要があります。
近年は抗菌薬投与による正常な腸内細菌叢の乱れからClostridium difficile (CD)が増殖し、毒素であるトキシンAとトキシンBを産生して腸炎などを引き起こすCD感染症 (CDI)が増加しています。下痢症患者の11-13.5%がCDIと診断され、ICUでのCDIの推定有病率は約1~2%という報告も海外ではあります4,5)。入院後72時間以上経過した患者ではCDI以外の感染性下痢症の頻度は低下しますがCDIは低下しないという報告があり6,7)、重症例では結腸穿孔や敗血症に至るため転帰不良となりえます8,9)。ICUでCDIを発症すると医療費増加10)、死亡率上昇11)、ICU滞在期間が延長するなど、デメリットがかなりあるという認識が必要です12,13)。抗菌薬関連下痢症のおよそ25%~33%および偽膜性腸炎の90%がCDIによって引き起こされます14)
なんと、いったんよくなって退院できても退院後も問題となります。CDI感染患者の10~20%ではCDが腸管内に定着してしまうため、周囲への伝播リスクが残ります。こうした背景を反映して、特に米国では市中感染の報告が増加傾向です15)。市中感染CDIなんて、ひと昔前は鑑別にも上がらなかったですが、救急外来を含めた外来診療でも注意が必要ですね。

 

 

CDIの定義と発症予防

CDIの定義は①1日3行以上の下痢かつ ②毒素産生CDやCDの産生する毒素(トキシン)の証明、あるいは偽膜性腸炎が証明されたものです16)。抗菌薬投与後3か月程度はCDIのリスクがあります17)。CDIの多くは発症前8週間以内に抗菌薬の処方を受けていますが、85%は28日以内の抗菌薬投与です16)。つまり、多くは1か月、2か月でも注意、3か月でもありうるよ、という解釈でよいでしょう。院内CDI においてはクリンダマイシン、セファロスポリン、カルバペネム系、ST合剤、フルオロキノロン系、ペニシリン系によるリスク増加が報告されていますが、特にクリンダマイシン、セファロスポリンが高リスクです18)。他の薬では、ICUで繁用されるPPIがCDIの発症のリスクであり19)、抗菌薬とPPIの併用はCDIリスクを増加させないために極力避けるべきであるという報告があります20)
現実的にはICU患者では抗菌薬とPPI投与をせざるを得ない状況(脳出血などで長期人工呼吸器管理+肺炎など)はありますが、メリットデメリットを考え、抗菌薬を開始するのか?開始したらいつやめるか?PPIを開始するのか?開始したらいつやめるか?は常に検討すべき課題でしょう。

 

 

接触感染予防

CDは芽胞を形成しアルコールに抵抗を示すため、患者あるいは医療従事者から伝番する点に注意が必要です。具体的にはゴージョー®などアルコール手指消毒薬による手指消毒は無効であり、流水と石鹸による手洗いによる手指消毒が必要となります。

 

 

CDIの治療

CDIに対する治療としては誘因となっている抗菌薬の投与中止が第一とされていますので、まずは患者の状態をふまえて抗菌薬の必要性を考察することが必要です。しかし、実際にはICUに入室するような重症細菌感染症では、抗菌薬を中止することが困難なこともあります。この場合は、重症細菌感染症治療は継続した上で、CDIに対する治療を行うこととなります。
CDI治療薬としては、軽度または中等症の患者は、経口メトロニダゾール(MNZ)または経口バンコマイシン(VCM)が第一選択となります21,22,23)。軽症例かつ経口投与可能であれば①VCM耐性腸球菌の発現リスクの軽減、②安価 の理由でMNZ500mg×4回の内服が推奨されます。巨大結腸症やイレウスなど内服不可能な場合はMNZ注射製剤のアネメトロを500mg×4回使用します。VCMとの比較ではCDIへの治療効果は同等とされていますが、重症例や再発例ではMNZよりVCMの方が有効であるため24)、敗血症になっている重症例や2回目以降の再発CDIにおいてはVCMが第一選択となります。本邦ではこれらの2剤の感受性は保たれていますが25)、諸外国では薬剤感受性低下と臨床的失敗率の増加が問題視されています26,27)。MNZやVCMは腸内微生物叢に大きく影響し、治療後10-20%は再発、さらに一度再発した症例は40-65%が再再発をきたします28)。イメージとしては、腸内微生物叢の破壊を最小限に抑え、なるべく微生物叢を破壊される前の状態に戻すことがCDIの再発を抑制・治療になることがわかります。ミヤBMなど整腸剤を投与するのもありですね。

 

 

新しいCDIの治療選択肢

①フィダキソマイシン(商品名ダフクリア® 3943.8円/錠)

新しい薬としてタンパク質合成阻害薬のフィダキソマイシン(商品名ダフクリア®)が日本でも使用できるようになりました。フィダキソマイシンはVCMと比較し治療効果が同等なこと、MNZやVCMよりも狭域スペクトルで消化管細菌叢への影響が少なく再発が顕著に少ないことから29)、将来MNZやVCMに代わりCDIの第1選択となりうる薬です。本邦における臨床試験でも有効性が認められています30)。2018年に改訂されるCDI診療ガイドラインでもCDI再発・難治症例の第一選択薬として記載される予定です。狭域であることから、個人的にはとてもよいと思いますが、薬価が高いのが問題です。新薬にすべからく共通する問題ですが、実臨床ベースの副作用がまだわかっていない(特に日本で)部分がありますので、そのあたりもデータの蓄積、見極めが必要です。

 

②ベズロトクスマブ(商品名ジーンプラバ® 330500円/瓶)

CDが産生するトキシンBの活性を中和するヒトモノクローナル抗体であり、世界初のCDIの再発抑制薬です31)。単回投与で使用され半減期は18.2日と長く、初発または再発症例に対する12週間の再発リスクが有意に低下することが報告がされています32)。しかし、目玉が飛び出るくらい高い!コストベネフィットからごく限られたシチュエーション、例えばMNZ、VCM、さらにはフィダキソマイシンを使用しても繰り返し再発し長期入院となるようなどうしようもない症例くらいしか現実的でないと思います。

 

③糞便移植(腸内細菌叢移植:FMT)

健常人の便を腸管内投与するという、一般常識的にとんでもない(?)方法が有効です。臨床試験で限られた施設での報告ですが、糞便微生物移植が良好な治癒率を得られています。便を凍結させて投与する33)、カプセルにして投与する34)など、工夫もされてきています。どこまで一般化されていくかわかりませんが、正常な腸内細菌叢にするために健常人の便を移すことが重要だということを示す裏付けとなりえる治療ですね。別の話ですが潰瘍性大腸炎にも効くのではないか?という報告も多くあります。
フィダキソマイシンとベズロトクスマブは高価であり、投与症例も限られるため、当院では許可制抗菌薬としています。

 

 

まとめ

CDIはまず起こさない、起こったら広めないことが一番大切です。つまり、不必要な抗菌薬、PPI投与は避けること、接触感染予防策を順守すること、ですね。全ての疾患でそうですが、起こさないようにするのが最もいい治療=予防なので、新しい治療選択肢を踏まえつつ、新しいものに飛びつくのではなく、予防が大切な原則はいつも変わらず、を心掛けていきたいものです。

 

 一番大切なことは、一番大切なことを、一番大切にすることである。
The main thing is to keep the main thing the main thing. (by Stephen Covey)

 

「完訳 7つの習慣 人格主義の回復」
→ 興味がある方はamazonででもみてください。マンガも出ているみたいです。

 

References

  1. Crit Care, 2012, 16, R215.

  2. Curr Opin Crit Care, 2006, 12, 149-54.

  3. Sci Rep. 2016, 6, 24691.

  4. Am J Gastroenterol, 2016, 111, 1641-1648. 

  5. Open Forum Infect Dis, 2016, 3, ofv186.

  6. Clin Infect Dis, 2001, 32, 331-351.

  7. Intern Med, 2014, 53, 533-539. 

  8. CMAJ, 2004, 171, 466-472.

  9. Epidemiology, 2014, 25, 570-575.

  10. Infect Control Hosp Epidemiol, 2007, 28, 123-30.

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  13. Open Forum Infect Dis, 2016, 3, ofv186.

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