日本大学医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野

教室紹介

ICU感染ラウンド

ICU INFECTIONS ROUND

ICU感染症ラウンド 第33回

第31回:2017年12月20日・第32回:2017年12月27日・第33回:2018年1月11日

Candida(後半)治療

今回は前回に引き続き「深在性真菌症」で、主に抗真菌薬への考え方をお伝えします。前回は診断や検査の所でしたが、今回は抗真菌薬の使い方です。

 

 

分類(抗真菌薬と真菌)

まず抗真菌薬!の前に、ソースコントロール、中心静脈カテーテルを抜去することなどを考えましょう。ICUセッティングでは真菌に関しては中心静脈カテーテル、尿道カテーテルが多く問題になります。
ICUなどの重症患者で覚える必要がある抗真菌薬として誤解を恐れずに言えば、

 

①ホスフルコナゾール
②ミカファンギン
③アムホテリシンB
④ボリコナゾール

 

特に①②の二つです。たった4つです。これだけ覚えれば臨床の9割は困りません。

 

真菌は
Candida
a. Candida albicans
b. Candida parapsilosis, tropicalis
c. Candida glabrate, krusei
Aspergillus

 

に分けます。これも、分類としてたった4つです。メラ、メラミ、メラゾーマにメラガイア―が加わったようなもので、4つならいける気がしませんか?

 

 

抗真菌薬のスペクトラム

まず前提として抗菌薬でも同じですが、大まかなスペクトラムを覚えましょう。この時、何菌に効く!と覚えることが多いのですが、私は、何菌に効き、かつ、何菌に効かない、というように覚えます。効かないのは何か、ということを知った方が武器として有効です。メタルキングにメラゾーマをいくら連発しても効かないのでムダですよね。知らないとこういった攻撃の仕方をしてしまいます。メタルキングなら経験値が得られないだけで済みますが、実臨床では有効な抗真菌薬を使用していない真菌血症患者は致死率があがります(J Clin Microbiol 43;: 1829-1835, 2005)。

 

①ホスフルコナゾール

アゾール系で~、プロドラッグで~などという御託は省きます。ICUで必要なことのみ伝えます。

 

Candida
a. Candida albicans
b. Candida parapsilosis, tropicalis
c. Candida glabrate, krusei
Aspergillus

 

です。赤が効き、薄灰色は効かない、ということです。
施設によって多少違いますが我々のICUでは特に真菌による中心静脈カテーテル感染を考えるときはホスフルコナゾールでおおまかに問題ありません。全国的にはフルコナゾール低感受性株が増えてきているなんてこともありますけど、現状では一般的にすごく気にするほどではありません。
大切なのは、十分量のローディングが必要だということです。ICUセッティングでは、私は800mgを2日間ローディングし、維持は400mg/日で使用します。万が一、治りが悪いな…などあれば我々感染症チームに相談ください。
薬剤相互作用がある(前回のコラムを参照ください)ので、ワーファリン内服者などでは注意が必要です。
余談ですが過去の集中治療専門医試験に、「ローディングが必要な薬剤はどれか?」という問題が出ており、答えの一つがホスフルコナゾールでした。

 

②ミカファンギン(カスポファンギン)

Candida
a. Candida albicans
b. Candida parapsilosis, tropicalis
c. Candida glabrate, krusei
(・ Aspergillus 属)
です。

 

腹腔内、尿路、術後のCandida感染症を考える時の第一選択です。parapsilosisだけ外すかも…と頭に入れておけばいいです。その患者の以前の培養でparapsilosisが出ている場合には第一選択にはならずホスフルコナゾールなどを選択しますが、それ以外では第一選択で問題ありません。
ミカファンギンはICUセッティングではとてもいい薬で、薬剤相互作用がほぼないです。ICUで抗真菌薬を使用する患者はだいたい多種類の薬剤を使用おり、薬剤相互作用を考えることは臨床医としては必須です。ICUじゃなくても必須だと思っています。患者を治すための薬で害を与えてはいけない、医療倫理の4原則の一つ、non-maleficence (Do no harmful) ですね。
Aspergillus 属だけ()にしたのは、Aspergillus 属は後述する④ボリコナゾールが第一選択であり第二選択であること、Aspergillus 属をターゲットにする時は高用量(300mg/日)が必要だからです。

 

ここからは重要度が落ちてきます。

 

③アムホテリシンB

Candida
a. Candida albicans
b. Candida parapsilosis, tropicalis
c. Candida glabrate, krusei
(・ Aspergillus 属)

 

Candidaには全部効きます。ただし問題なのが腎障害です。リポソーマル製剤になり腎障害の割合が減りましたがそれでも多いです。ICUでは急性腎障害(AKIと言います)患者が多く、AKIになっていなくてもそのリスクが高いので、できる限り腎臓に負担はかけたくありません。私の位置づけは、Candidaが絶対に外せない「最後の切り札」です。マダンテのように相手が誰でも相当なダメージを与える代わりにMPが0になるリスクを負う的なイメージです。当ICUでも2017年の1年間で使用したのは1症例のみでした。

 

④ボリコナゾール

(・Candida属)
(a. Candida albicans
(b. Candida parapsilosis, tropicalis
c. Candida glabrate, krusei
Aspergillus

 

Aspergillus」用です。Candida属は①、②で充分対応可能であり、肝障害などの副作用もあるため、Candida属には基本的には使用しません。

 

まずは上記のように頭に入れてもらって、その上で必要であれば、「侵襲性カンジダ症の診断・治療ガイドライン」などを参考にしてください。でも、最初からガイドラインを読もうとすると、正直なえます(笑)。
真菌に関しては以上になります。

 

 

余談ですが、情報があふれているこれから時代の我々医師は、情報を頭に入れるよりいかに正確な情報を早く引き出せるか、という点に主眼を置かれるようになります。知識を詰め込んでもコンピューターの正確さには勝てません。IT時代になっていくこれからは、複雑な意思決定能力、決断能力などが我々医師の重要なスキルになってきます。「それ知っているよ」と自慢するよりも、「こう考えて、そのために情報をこう引き出して、この決断をしたよ」ということを繰り返すことが決断能力を養っていくことに繋がります。
ITと共存していくためにも、ITが得意なことは任せ、苦手なことのスキルを伸ばしていきたいですね。

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