日本大学医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野

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ICU感染ラウンド

ICU INFECTIONS ROUND

ICU感染症ラウンド 第39回 第40回 第41回 第42回

第39回:2018年4月3日・第40回:2018年4月10日・第41回:2018年4月18日
第42回:2018年4月24日

敗血症時の昇圧薬の使い方、考え方

今回は抗菌薬ではなく、「敗血症の昇圧薬の使い方」という少し変わった(?)テーマです。意外とこのテーマに触れている著書は少ないと思います。我々救急集中治療医ほどこの扱いに長けている医師もいないため、コラムにしたら面白いと思いました。
「SSCG(ガイドライン)2016もノルアドレナリン(Nad)推奨で、Nadでいいじゃないか!」という方もいるかもしれません。しかし、Nadよりも他の昇圧薬の方が良い場合もあります。今回はその辺の考え方を、バゾプレシンやステロイドも踏まえ、お伝えできればと思います。

 

 

➀敗血症、敗血症性ショックの定義とその死亡率

敗血症の定義を正確に把握しておく必要がありますので少しだけ。
敗血症は臓器障害を伴う感染症です。もう少し詳しく言うと、SOFAスコアという臓器障害スコアが2点以上増加した感染症は敗血症です。2016年からこの定義になっています(JAMA. 2016 Feb 23;315(8):801-10. PMID: 26903338)。2016年定義敗血症では、死亡率は10%です。
敗血症かつショック、が敗血症性ショックです。もう少し詳しく言うと、急速輸液を行っても「1.昇圧薬が必要かつ2.乳酸値2mmol/L以上」の2つを満たすものが敗血症性ショックです。2016年定義敗血症性ショックでは、死亡率は46.5%です。
ここで注意したいのが、死亡率といっても、28日死亡率ということです。癌は5年生存率ですよね。年と日では全く意味が違います。これを見ても、いかに敗血症患者を救うために迅速に対応できるか、というテーマが重要なことに気づかされますね。世界(https://www.world-sepsis-day.org/)や日本(http://敗血症.com/gsa.html)において、world sepsis dayを9月13日として、「敗血症患者を救おう!」と色々な取組がされています。2020年までの達成目標として、「敗血症の救命率を10%改善させる」などを世界目標として掲げています。

 

 

➁そもそも、なぜ敗血症に輸液や昇圧薬が必要か?

敗血症になると、血管透過性が亢進します。つまり、血管の網目構造(グリコカリックスなど)が破綻して、血管から水のみならず、アルブミンなどが漏れ出ます。このため、血管内ボリュームが不足して、循環血液量減少性ショックになります。その為、急速輸液に加え、ある程度の輸液量が必要になります。いくつか臨床試験(N Engl J Med. 2014 Apr 10;370(15):1412-21.PMID: 24635772 など)がありますが、細胞外液とアルブミン投与で臨床的に有効性に差がないのは、アルブミンも漏出するという理論的背景からも納得できますね。
 また、敗血症になると、NOなどにより、末梢血管が拡張します。末梢血管拡張により、後負荷が低下し、血液分布異常性ショックになるため、昇圧薬(血管収縮薬)が必要となります。昇圧薬の代表例がNadです。ただし、進行すると末梢血管が収縮するフェーズとなりうるため、この場合は血液分布異常性ショックにならないことがあります。これは、意外と気づかれていません。
 ここまでは割と基本的な部分ですが、基本をおさえることが王道です。
 一部の敗血症性ショックでは、心原性ショックになるものがあります。敗血症性心筋症(septic cardiomyopathy)などと呼ばれています。カテコラミン心筋症が原因ではないかと言われており、たこつぼ型心筋症のようになることもあれば全周性に心機能が落ちることもあります。心原性ショックとなれば、強心薬(アドレナリン、ドブタミンなど)も検討する必要があります。

 

 

➂昇圧薬(血管収縮薬)の選択について

2016年の敗血症ガイドラインでは、SSCGも日本の敗血症ガイドラインでも、Nadが第一選択となっています。この根拠は、2010年のNadとドパミンを使用した大規模RCTで、死亡率に差を認めなかったがドパミンが有意に不整脈などの有害事象を多く認めたという研究があるからです(N Engl J Med. 2010;362(9):779-89. PMID: 20200382)。これも含めたシステマティックレビューでも、Nadが28日死亡率を有意に改善するという結果でした(PLoS One. 2015;10(8):e0129305 PMID: 26237037)。このため、現在のガイドラインでは敗血症性ショックの第一選択薬がNadとなっており、今後のガイドラインも恐らく変わらないでしょう。
 しかし、「Nadで循環が保てない時はどうしたらいいの?」「敗血症性ショックならどんな時もNadがいいの?」などの疑問が湧いてきます。
Nadで循環保てない場合は、<心機能低下がある場合><心機能低下がない場合>に分けて考えていく必要があります。まず薬理作用からです。なんでもそうですが、理論を知ることはエビデンスを知ることと同様に重要です。

 

<薬理作用について>

まず,カテコラミンの薬理作用を簡単におさらいしたいと思います。主にα受容体とβ受容体への作用の強度に違いがあります。誰もが知っていると思いますが,α受容体を刺激すると血管収縮,β受容体を刺激すると心拍出量を増加させます。

 

 

α作用の強さではノルアドレナリンアドレナリンドパミンドブタミン,β作用では逆になって、ドブタミンドパミンアドレナリンノルアドレナリンです。つまり,心臓に余計な作用が不要で血圧を上げたい場合はノルアドレナリンを使用するということが分かります。余談ですが,受容体に作用する薬は,受容体を全て埋め尽くしてしまえば,それ以上に作用を発揮することができませんので,薬理作用は頭打ちになります。後述しますが,ショックの時には生体を守ろうと大量のカテコラミンが分泌されていますが,それでも立ち直れない状態で病院に運ばれてきます。その時にカテコラミンを点滴で投与開始すると思いますが,すでに生体から分泌されたカテコラミンが受容体を占有しているため,アシドーシスが強い時はカテコラミンの効果が悪いと感じるのは,そのような要因があります(他にも様々な報告があります)。

 

 

次に,バソプレシンの薬理作用です。バソプレシンはバソプレシン受容体(V受容体)に作用することで効果を示します。V受容体は場所によって分かれており、V1受容体は腸管や血管に、V2受容体は尿の通り道である集合管に存在し、非常に強力な血管収縮作用を発揮します。この作用はα受容体を介した経路とは異なりますので,カテコラミンとの併用が非常に効果的であることが薬理作用からも分かります。ただ,腸管にも作用してしまいますので,腸管に何らかの病変、特に虚血性病変がある、リスクが高い場合は使用しづらいです。

 

<心機能低下がある場合>

➁の最後にも触れましたが、敗血症性心筋症による心機能低下がある場合は、Nadに加えて、1.アドレナリン2.ドブタミンの検討が必要です。
どちらがいいかは現時点で断定できません。個人的には1.アドレナリンの方が手ごたえを感じています。なお、日本版敗血症ガイドライン2016では「どっちがいいか結論が出ていないよ」というスタンスです。ドブタミンが古くから(EGDT(N Engl J Med2001;345:1368-1377. PMID: 11794169)の時代以前から)使用されていますが、末梢血管拡張作用があることとβ作用が強いため、後負荷を読み切らないと使用しにくい印象があります。後負荷に関して、敗血症初期はwarm shockで減少するが、進行するとcold shockで後負荷が増加する可能性があります。しかし、その時期を読み切るのはなかなか厳しく、Nadを使用して血管収縮させているところでドブタミンの末梢血管拡張作用があると、どちらに転ぶか難しいです。可能であれば血行動態モニタリング(EV1000など)を行いながら検討するのが望ましいと思います。アドレナリンはα作用と心機能に関わるβ1作用を共に合わせもつため、末梢血管拡張および心機能低下によるショックにも理論的には有効だと考えます。

 

ドパミンはあまり使用しません。上記にもあるように、エビデンスとしても分が悪いです。ドパミンは投与量により薬理作用が異なり,中用量(5~10γ)ではβ作用が優位であり,高用量(10γ~)ではα作用が優位になり,血圧の低下が著しく投与量を増加させると心拍出量の増加作用が低下します。さらに高用量になると催不整脈作用が認められるなどの理由から、使用しない方がいいと考えられます。しかし、上記は敗血症性心筋症の時であって、元々心機能低下があるような患者に敗血症が合併した場合は、適正な投与量においてドパミンの出番もあるのではないかと考えています。

 

そして薬でどうにもならない時は、心機能低下例はV-A ECMOの出番があるかもしれません。一言で私の考えを述べると、多臓器不全を伴っていないもしくは少ないが、循環不全が強いような敗血症性ショックの場合には適応になる可能性があると思っています。逆に、すでにある程度時間が経過し、多臓器不全になっている敗血症性ショックを伴う場合は、不可逆的な多臓器不全の結果をみている可能性が高いので、適応になる可能性は低いと思います。

 

<心機能低下がない場合>

Nadに加えバゾプレシンを使用します。カテコラミン受容体を介さない血管収縮薬であり、Nadへの反応が悪い場合に有効です。カテコラミンに対する反応性を改善させるともいわれています。当院ではNadに不応性である場合はバゾプレシンを割とすぐに使用します。タイミングとしてはステロイドを検討するタイミングと同じくらい(来院2,3時間程度)です。Nad高用量であれば、バソプレシンとステロイドのどちらかは割とすぐ投与します。

 

「敗血症性ショックならどんな時もNadがいいの?」という質問にも繋がりますが、pHがあまりにも低いとき(pH 7.0とか)はNadなどのカテコラミンは効きにくくなります。このため、Nadの代わりにバゾプレシンを最初から使用してもいいかもしれない、と思っています。

 

 

➃ステロイドについて

Nad高用量(目安0.2ug/kg/min程度以上)になっている場合、当院ではハイドロコルチゾン100ugローディングの上、200ug/日を持続投与します。持続投与か間欠投与かはどっちでもいいと思います。カテコラミン受容体の回復などの効果を狙ってです。Nad低用量で循環が保てるような場合は不要と判断します。
最近面白い文献があり、敗血症性ショックの中でも重症なもの(SOFAで少なくとも2項目(臓器)以上がスコア3 or 4、Nad or Ad 0.25ug/kg/min以上)に対して、糖質コルチコイド作用:鉱質コルチコイドが1対1程度(つまり両方)あるヒドロコルチゾンだけでなく、鉱質コルチコイド作用の強い(1対12.5)フルドロコルチゾン(50ug/日)を併用すると、placeboに対して90日死亡率が改善した、というものです(N Engl J Med. 2018;378(9):809-818. PMID: 29490185)。これはミネラルコルチコイドがα1アドレナリン受容体発現を回復させることによる、アドレナリン作動薬の反応性の改善が関係しているとディスカッションにあり、なるほどと思いました。個人的な考えでは、ナトリウムを血管内に保つ鉱質コルチコイド作用がhypovolemic shockの改善にも繋がるのかもしれないな、なんて思いました。
フロリネフ®1錠100ugで334円なので、半錠(50ug)投与はコストパフォーマンス的にもよいなと思いました。今後は敗血症性ショックの中でも重症症例、かつpHが割と保たれている症例には行ってみようかなと思っています。pHが保たれていないものは先にバソプレシンを使用すると思います。
いずれにしても、カテコラミン投与自体が有害な副作用をいくつかもつので、「減らせる、やめられるならできるだけ減らす、やめる」というスタンスは間違いないと思います。

 

 

今回は大作になりました。色々調べましたし薬剤師さんにも確認追記してもらいました。改めて私自身もすごく勉強になったので、皆さんの臨床の足しになれば幸いです。

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