日本大学医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野

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ICU感染ラウンド

ICU INFECTIONS ROUND

ICU感染症ラウンド 第51回 第52回 第53回 第54回

第51回:2018年7月11日・第52回:2018年7月24日・第53回:2018年7月31日・第54回:2018年8月21日

新種の菌?質量分析器の登場

最近、聞いたこともないような細菌が培養から出た!なんてことはありませんか?また、培養を提出してから時間がたっていないのに、すぐに菌名がわかった!なんてこともありませんか?うちのICUではここ数年よくあります。
これは新種の菌というわけではなく、細菌を素早く同定する技術が上がったからです。おそらくそういう施設は「質量分析装置」を導入しているのではないかと推察されます。当院でも導入されています。
そこで、今回は「質量分析による細菌同定」について述べたいと思います。とはいえ、質量分析の技術的側面ではなく、知らない菌が迅速に出たらどのように対応するか?についてです。

 

田中耕一博士をご存知ですか?質量分析のための技術で「タンパク質を壊さずにイオン化すること」に成功して2002年にノーベル化学賞を受賞しています。素晴らしい研究ですね。
これを応用し、細菌のタンパク質の質量分析を行って、菌名を同定しています。
Matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry(MALDI-TOF MS,マトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析 といいます。マルディトフ、と呼んでいますが、正確な表現かは不明です。商品としては、1つはブルカー・ダルトニクス社(ドイツ)の「MALDI Biotyper」、もう1つはシスメックス・ビオメリュー社の「VITEK MS」として販売されています。
質量分析の詳細は島津製作所ホームページをご覧ください。
https://www.shimadzu.co.jp/aboutus/ms_r/qa.html

 

 

<知らない菌が出たらどうするか?>

ここから細菌の話です。以下の細菌を聞いたことがありますか?

 

Enterobacter sakazakii
Exophiala dermatitidis
Moraxella lacunata
Candida dubliniensis

 

…聞いたことないですよね。私もまったく聞いたことがなかったです。
上記は世界でも数十例程度の報告のものが多いですが当院で分離された起因菌です。今までの培養法では、例えばEnterobacter  sp.(エンテロバクター属)、などとしか同定できないものが、質量分析法によって、詳細な菌名まで判明するようになりました。今後、質量分析を菌種同定に用いることによって報告が増えてくると思います。

 

知らない菌が出たらどうすればいいでしょう?
調べればいいです。当たり前といえば当たり前ですが、覚えていないし知らないので、調べるしかないです。

 

例えば腸内細菌群、MRSAや緑膿菌などは頻度も多く、効果のある抗菌薬も慣れてくれば覚えられます。頻度が多いのでその都度勉強していけば徐々に覚えていき、適切な治療ができるようになります。ですが、知らない菌はその都度調べるしかないです。
Pubmedなどで文献を調べると、その菌の今までわかっている特徴の文献があります。それに対応して臨床を行うこと、これが唯一の解決法だと思います。
またそれを通して、世にその知識を広めていく、つまり学会発表や論文執筆も、知見を蓄積する、という点で重要です。

 

実は菌が詳細に(迅速に)わかることにより、その特徴からオーダーメイドのように患者を治療していくことができるようになる可能性は今後あると思っています。実際に当院ICUでも聞いたことのない菌が検出され、それをすぐに調べ、治療や検査に結び付けることのできた症例があります。今後、学会発表や論文化予定です。

 

他にも、細菌の遺伝子を解析して、細菌同定や耐性遺伝子の有無を調べる検査(Verigene®、FilmArray®)も近年保険適応となりました。今後広まっていく可能性がありますが、また別の機会にします。

 

質量分析は日本人が開発した方法なので、日本の医療から世界に発信していきたいですね!

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