日本大学医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野

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ICU感染ラウンド

ICU INFECTIONS ROUND

ICU感染症ラウンド 第61回 第62回

第60回:2018年11月27日・第61回:2018年12月11日

ビール樽のイメージ!重症患者の抗菌薬投与量の考え方part 2

 皆さん、クリスマスはいかがお過ごしでしょうか?クリスマスからお正月はお酒関連での救急搬送も増えますので、救急搬送されないよう(?)、適度にお楽しみください。

 前回に引き続き、重症患者の抗菌薬投与量の考え方を、ビール樽のイメージで伝えていきます。

 

前回と今回のキーワードは

①ビール樽を早く満たせ!(分布容積:Vd)

②ビール樽の大きさの変化に対応せよ!(重症時のVdの変化)

③ビール樽を常に満タンにせよ!(クリアランス:CL)

④ビール樽の注ぎ口の変化に対応せよ!(重症時のCLの変化)

 

でした。

 前半①②は、ビール樽の大きさ(Vd)の話で、まずビール樽を満たすことで効果を発揮することをお伝えしました。重症時にはさらに大きくなるビール樽を満たす、つまり抗菌薬初回投与量は少なくともフルドーズで投与する、さらにビール樽の元々小さい(Vdの小さい)抗菌薬(βラクタム系)ではビール樽の変化が大きい(10L→20L)だから、量を増やしたり間隔を詰めたりする必要がありうる、ということでした。

 

今回後半は、③④ビール樽の蛇口、すなわちクリアランス:CLの話です。

 

③ビール樽を常に満タンにせよ!(クリアランス:CL)

 ①②で満たされたビール樽は、注ぎ口からビールが出ていきます。この出ていく量がクリアランス(CL)になります。CLには主に腎機能(一部肝臓)が関与します。CLが普通、すなわち腎機能が正常であれば、ビールが出ていく割合は一定なので、通常の投与量・間隔でよいです。このように、ビール樽を満たすことで抗菌薬は効果を発揮するため、例えば、細菌感染症がよくなってきたからという理由で投与量・間隔を減らしたりするのは意味がないことがわかります。実は意味がないどころか、中途半端なビールの量の状態で細菌をさらすと、なんと耐性菌を増やしてしまうのです!つまり中途半端が最悪です。腎機能が変わらなければ、抗菌薬投与量・間隔は減らさない、そう考えてよいでしょう。

 

④ビール樽の注ぎ口の変化に対応せよ!(重症時のCLの変化)

 ここは、a.腎機能障害=注ぎ口が細くなる b.ARC=注ぎ口が太くなる 二つに分けて考えていきます。

 a. 腎機能障害

 ビール樽の注ぎ口が細くなった場合はどうなるでしょう?少しずつしか出ていきませんね。その状態でビールを通常通りのペースで補充したらどうなりますか?溢れますね。溢れると何がいけないか?ビールなら拭けばいいのですが、抗菌薬だと薬剤の副作用が強く出てしまう可能性が高まります。つまり、注ぎ口が細くなった時=腎機能障害が出た時、は投与量・間隔を減じる必要が出てきます。

 注意点がいくつかあります。一つ目としては、最初から腎機能が悪くても、抗菌薬の初回投与量を減らす必要はないということです。前回のコラムを参照ですが、空のビール樽を満たすには最初はフルドーズでよいのでしたね。

 二つ目の注意点としては、急性腎障害(AKI)を発症した時、またそれから回復する時は、Crや計算で求めるeGFRやCock- croft-Gaultなどは正常に腎機能を反映しないということです。これらの指標は慢性腎障害のツールです。AKIを発症した時はCrで表される腎機能より実際の腎機能はより悪いですし、逆に回復してくる時は実際の腎機能はより良いです。ビールの注ぎ口が細くなっているのを知るために、注ぎ口の内径を覗き込まずに外から眺めているようなものです。AKIについてはKDIGO分類が今は世界基準と思いますので、興味がある人は一度見てみてください。Crの変化率や尿量などが基準で、Crの絶対値だけではないことに気づきます。

 三つ目は、いざ腎機能を調整して抗菌薬の投与量・間隔を決める時、例えば2gか1gか、8時間置きか12時間おきかで迷うことがあります。その時は、多い方(間隔が短い方)を選びます。少ない方を選ぶと、抗菌薬過少で治らないリスクと、中途半端は最悪で治らない所か耐性菌を作るだけだからです。そして、多少多くなっても割と安全な薬が多いからです危険な薬はVCMやアミノグリコシド系のようなTDMができる薬、と考えましょう。

 

 b.ARC

 ARCについてです。重症病態ではビール樽の注ぎ口が太くなり、たくさん出ていってしまうことがあり得ます。ARCとは、augmented renal clearanceの略で、重症病態では腎血流量増加を起こし腎でのCLが増加する、という状態です。必ずしも全員で起こるわけではないですが、若年者、妊婦、敗血症、外傷、外科手術後、熱傷などで関連がある、と言われています(Udy AA, et al: Implications of augmented renal clearance in critically ill patients. Nat Rev Nephrol.2011 Jul 19;7(9):539-43.)。ARCが起こると抗菌薬の投与量を上げる、回数を増やす必要が出てくる、ということです。

 

 a.bまとめると、敗血症などの重症病態では腎機能障害を合併して投与量・間隔を減じる必要があることもあれば、ARCを合併して逆に増やさなきゃいけないこともある、ということです。ビール樽の注ぎ口が細くなっているか、太くなっているかを意識しましょう。

 

当救命センターでは、各医師や薬剤師に向けて、腎機能別の抗菌薬投与方法を医師と薬剤師で相談の上で毎年更新し、ポケットサイズにラミネート加工して配布しています(添付を参照)。ちなみにこの裏は以前も紹介した当救命センターのアンチバイオグラムです。サンフォードでもいいのですが、サンフォードには米国にない抗菌薬だけれど日本では使いやすいもの(CMZ、CTM、TEICなど)があるので、当センターでは皆これを使ってくれています。ただし、注意点はこの2回のコラムの通りなので、これを丸々鵜吞みにしてはいけません。これを参考に、目の前の患者には何が最適か?理論的に考えていく必要があります。

 

2回にわたって「ビール樽」のイメージで、重症患者の抗菌薬投与量の考え方をお伝えしましたがいかがでしたでしょうか?薬は我々医師の武器なので、薬理学や薬物動態学を知った上で、ベストな選択ができれば、患者アウトカムに繋がります。特に、敗血症診療では抗菌薬選択は患者アウトカムを良くするキモ(他のキモは呼吸、循環の立て直し)であるのと同時に、初回投与は1時間以内に決め、その後には投与間隔をどうするかを数時間以内に決めないといけない時間的制約もあります。

 

重症感染症、敗血症は最初に診た医師が適切に対応できるか否かで生存死亡の転帰が変わってくる疾患の一つですので、なるべく多くの医師が初期対応できるように、今後も話題を提供できればと思います。

 

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