日本大学医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野

教室紹介

ICU感染ラウンド

ICU INFECTIONS ROUND

ICU感染症ラウンド 第1回

第1回:2017年4月10日

ARC de-escalation注意点

ラウンド中に議題に上がったことを一般化し、文献、時事を交えながら述べていきます。

 

 

➀ARC、浸出液について

創部からの滲出液が多い患者での抗菌薬増量にについて、浸出液には割と多くの抗菌薬が出ていますので、CHDFの腎機能用量ではCEZ1g×2回の投与が推奨投与量ですが、浸出液が多いためCEZ1g×3回を推奨しました。
ARCについてです。ARCとは、augmented renal clearanceの略で、重症病態では腎血流量増加を起こし腎での(抗菌薬などの)薬のクリアランスが増強される、という状謡です。必ずしも全員で起こるわけではないですが、若年者、妊婦、敗血症、外傷、外科手術後、熱傷などで関連がある、と言われています(Udy AA, et al: Implications of augmented renal clearance in critically ill patients. Nat Rev Nephrol.2011 Jul 19;7(9):539-43.)。つまり、ARCが起こると(ものによっては)抗菌薬の投与量を上げる、回数を増やす必要が出てくる、ということです。
実は、抗菌薬の推奨投与量をお配りしていますが、あれだけが必ずしも正解ではありません。上記のようなARC、浸出液、CHDFやっているけど本人の腎機能が残っている、など、まず宿主側(とわざわざ記載するということは、菌側の問題もあります!)の問題でもたくさん考慮することはあります。迷ったら腎機能が良い方で、抗菌薬を多めに!と普段言っている理由はこういったところにもあります。

 

 

➁βDグルカン疑陽性について

βグルカンの上昇で抗真菌薬を投与する場合があります。βDグルカンは以前よりは疑陽性が減ったものの、血液製剤(アルブミンやガンマグロブリン)投与でβグルカンが偽陽性になることがあるので、注意が必要です。以前言われていた血液透析膜での疑陽性については、当院で採用されているPMMA膜やPS膜のような合成高分子系膜では生じないので、これについて現在はあまり考える必要がなくなっているかと思います。

 

 

➂原因のはっきりしない痙攣について

ICU患者での原因のはっきりしない痙攣の場合、高濃度の薬剤の可能性を考える必要があります。特に、腎障害、肝障害患者では、血中濃度が思ったより上昇することがあります。有名どころではイミペネムの痙攣ですが、その他の抗菌薬でも起こります。フルコナゾール(腎排泄)が高濃度になると痙攣がおきたという症例報告もありました。

 

 

➃de-escalationの注意点

de-escalationは、2016年の厚生労働省から公表された薬剤耐性アクションプランにおいても、重要な広域抗菌薬の使用量減少手段です。日ごろから1回でもde-escalationを早くやろう、と言っているのには、将来、私が耐性菌で死にたくないからです(笑)。でも笑いごとではなくてなぜ国を挙げて、いや世界を挙げて推奨しているかというと、2015年にイギリスの調査チームが、このままでは50年後には年間1千万人の死者(アジアで約500万人)が出ると予測したからなのです(http://www.nikkei.com/article/DGXLZO83647580V20C15A2CR0000/)。これは、1年間の癌死よりも多いという推測であり、非常に問題です。皆さんが50年後になったころは高齢者の仲間入りをしているころ?で、感染症も多くなってくる年です。他人事では決してないのです。一つでも1回でも、広域抗菌薬投与を減らす努力を皆でしていきましょう。
ところで、de-escalationを行う時の注意点として、➀単一菌感染である ➁移行性が問題ない ➂他に感染源がない ことを確認する必要があります。
➀下部消化管穿孔で血液培養陽性、大腸菌が出ました。大腸菌の感受性は皆良好なので、セフォチアムにde-escalation…という思考は危険です。下部消化管穿孔は便が腹腔内に漏れ出てしまうで、複数菌感染です。血液培養陽性の菌は確かに起因菌ですが、それ以外の嫌気性菌も含めたカバーも必要となるでしょう。
➁抗菌薬移行性を考える必要のある臓器3つ+αがあります。➀髄液➁眼➂前立腺 +膿瘍です。これらは一部の抗菌薬が行きにくい、行かないため、抗菌薬の選択に注意が必要です。我々が一番経験する可能性のある髄膜炎では、第一、第二世代セフェムは髄液に移行しません。尿路感染症がなかなかよくならない…と思っていたら前立腺炎だった、なんてこともあるようです。膿瘍はそもそも抗菌薬が届きにくいので、ドレナージを常に検討する必要があります。培養結果だけみてのde-escalationはここでも危険です。
➂他に感染源がある、複合感染例が稀ですがあります。本当にそこの感染症だけでよいのか、診察が必要です。これだ!と一発診断した時の方が落とし穴にはまりやすい(内科診断学の格言で、「診断の早期閉鎖」と言います)ので注意が必要です。

 

 

MICの話などもあったのですが、長くなってきたのと、長続きさせたいのでまた今度にします。

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