日本大学医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野

教室紹介

ICU感染ラウンド

ICU INFECTIONS ROUND

ICU感染症ラウンド 第12回 第13回

血液培養(ときどきこども)

週1に救命センターで開催される感染症roundに参加させていただいております。
今回『血液培養(ときどきこども)』についてお話します。ポイント別にわけていきます。

 

 

①考え方

これまで小児の血液培養において明確なガイドラインはありません。我が国において各施設のポリシーもなく現場でバラバラに採取しているところが少なくありません。血液培養も、他の臨床検査と同様に、適応を考えて実施します。「なんとなく」、「とりあえず」、「血液検体があまったから」や「アリバイ作り」的に実施するほど気軽な検査ではありません。
血液培養ボトルは1本¥1,000弱かかります。ちなみに痰培養なら1検体¥1,600かかります。
バランスよく検査を組み立てる必要があります。いったん検査すると判断したならば「正しく」、そして「徹底的に」採取します。ここで大事なことは正しい手順と十分な採取量と採取セット数です。ここをないがしろにすると起因菌検出率が低下し、コンタミ(汚染菌)と真の起因菌を区別することが困難になり、結果的に患者さんに害をあたえることになります。

 

『正しく実施できないなら、しない方がまし

 

 

②適応

原則的に入院を要する(入院中におきた)細菌感染症(その疑い)では、血液培養を行います。発熱しているから全例採取???違います。逆に、発熱がなくても複数セット採取しないとならないときもあります。小児科的に有名なのは「not doing well」、なんとなく調子がわるいときです。ほかにもたくさんありますが、ICUの方々には釈迦に説法ですので割愛します。

 

 

③メリット

正しく培養検査がおこなわれた場合のメリットは、その病態に関して『正しい情報』が手に入ることです。その結果、患者の予後が改善し、入院日数の短縮、抗菌薬の不適切な使用を防止することができます。血液以外の検体採取が困難な感染症の診断ができたり(感染性心内膜炎、化膿性骨髄炎など)、培養陽性菌から臓器特定ができる(緑色連鎖球菌➤亜急性心内膜炎)、また抗菌薬投与期間が設定できたり、患者への説明に役に立ち、ある程度の重症度・予後の予測ができます。

 

 

④タイミング

抗菌薬投与前(変更前)に、菌血症を疑える状態にあればできるだけ早急に採取します(1時間以内に2セット)。すでに抗菌薬投与がされている場合は、待てそうなら次の投与まで待ち、重症でまてなければ、さっさと血液培養を採取して異なる抗菌薬を投与します。

 

 

⑤採取量

成人では、採血量が唯一・最大の感度に影響するファクターです。望ましいのは1セット20ml採取して嫌気、好気ボトルにわけることです。
一方小児は、菌量が成人より多いといわれています。低年齢では循環血液量が少なく、『失血』 の問題があり、採血する場合全血量の1%を超えるのは危険といわれています。
また『入れすぎ』も問題です。ボトルに記載されている適正量(MAX4~5ml/小児ボトル)を確認し、規定量以上はいれないようにしましょう。どういうわけか偽陽性が増えるそうです。規定量以上入れる場合には迷わず成人ボトルを使用してください。

 

☆血液培養採取量の目安

対象 1回目(mL) 2回目(mL) 備考
低出生体重児 0.5ml   ±嫌気0.5ml
新生児(~7日) 0.5ml   ±嫌気0.5ml
8~28日 0.5ml 0.5ml  
28日~12か月 1 1  
1~3歳 1 2  
4~8歳 1 3  
9~12歳 3~4 3~4  
13歳~ 10 10 成人用ボトル

 

※2セット採取を前提に日本人小児の標準体重を基にした循環血液量の「1%」採取量で規定
兵庫県立こども病院 感染症科 笠井先生のまとめから抜粋

 

 

⑥セット数

やはりガイドラインもないため明確な記載がありません。よほど意識していないと複数セットは採られていません。成人では血液培養セットの累積感度は
1セット:73.2%
2セット:93.9%
3セット:96.6% といわれています。
すなわち、「1セットだけでは、見逃す可能性が26%もあるので、必ず2セットが必要」が常識ですね。
これは小児にも適応されます。起因菌を知る必要がある重症例では、必ず2セット以上、時間を変えてあえて採取します

 

 

⑦ボトルの種類

小児において嫌気ボトルをルーチンで採取する必要は早期新生児を除いてありません。なぜならば嫌気性菌が想定される感染症が小児においては極々限られているためです(通常ERで採取された血液培養のうち陽性検体中嫌気性菌検出率は5%未満、Dunne et al. 1994. PIDJ)。
そのため小児領域では基本的には1種類の血液培養ボトルを使用することになります(嫌気性菌想定される場合はその限りではありません。)。

 

ちょっと古いのですが、日本語の血液培養検査ガイドラインというのが2007年に出ています。普遍的な部分が多く古さはそこまで問題にならない領域かと思います。血液培養をさらに知りたい方はこちらを見て頂ければいいかと思います。実は桑名先生もネーベン時代にこれを見てコソ勉したそうです(笑)。
http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=229280

 

 

大人と比べてこどもの領域はまだまだ未開のこともありますが、ぜひぜひ皆様と一緒にこどもをみていきたいので、どうぞよろしくおねがいします。

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