教室紹介
ICU感染ラウンド
ICU INFECTIONS ROUND
ICU感染症ラウンド 第27回 第28回
抗菌薬と他剤との配合変化&相互作用 ~オウンゴールを避けるために~
「Do no harm」という言葉をご存知でしょうか?
医療倫理でよく用いられる言葉ですが、私自身は、こと薬剤の副作用、相互作用に関してあてはまるなぁとよく思います。患者を治すために良かれと思って使う薬で、かえって状態が悪化してしまうということはなるべく避けたいものです。私の好きなサッカーでいうと、ゴールを守ろうと必死になって相手のパスをブロックしたら、パスの軌道が変わってオウンゴールになってしまったような感じです。ディフェンダー(主に守る人)としてはやり場のない気持ちになるんですよね、あれ。
そこで今回は、特にICUで注意すべき抗菌薬やICUで頻用される薬の薬剤相互作用にスポットをあてようと思います。5つ取り上げてみました。個人的にはICUでは3つめ、抗菌薬によるPT-INR過延長が頻度として一番多いのではないかと思っています。
1. カルバペネム系抗菌薬とアミノ酸含有輸液
重症感染症に用いられることが多いカルバペネムですが、アミノ酸を含んだ輸液と配合することで力価が低下することが報告されています。アミノ酸(L-システイン)のSH基がカルバペネムのβラクタム環構造を分解することが原因であり、1時間後に70%以下まで力価が低下する報告もあります。 対象薬剤使用時においては別ルートでの投与や抗菌薬投与中はアミノ酸含有輸液の一時中止などが必要です。ICUでアミノ酸製剤を投与する場合には注意が必要です。
メロペン注 インタビューフォームより引用
2. セフトリアキソン注とCa含有製剤
新生児で死亡例が報告されています。
セフトリアキソンとカルシウム含有製剤を同一経路で同時に投与した場合に肺、腎臓などに生じたセフトリアキソンの結晶により死亡してしまったようです。
成人での報告はありませんが、結晶が生じている可能性があり、人体に有害な影響を与えることも考えられるため併用時には中止が必要です。
Ca含有製剤:ソリューゲンF・G®、ビカーボン®、フィジオ35・140®、ビーフリード®、パレプラス®、エルネオパ®、カルチコール® etc
3. 抗菌薬、抗真菌薬(アゾール系)とワーファリン
抗菌薬は病原菌のみでなく常在菌にも作用します。その際、腸内細菌層にも影響を与え、ビタミンKの産生が低下します。よって、ビタミンK欠乏により抗菌薬投与だけでPT-INRが延長することもあり、報告も多数あります。
加えて、高齢者が増え心房細動「時代」となっている日本において、抗凝固薬として頻用されるワーファリンはビタミンKに拮抗することで作用を示します。そのため、抗菌薬併用時にはビタミンKの産生が低下することでワーファリンの作用増強が予測されます。
また,ワーファリンは代謝に関わる相互作用が多く、代謝酵素(CYP)を阻害する抗真菌薬との併用でも作用増強することが知られています。CYP阻害作用を持つアゾール系抗真菌注射薬としてホスフルコナゾール、ボリコナゾールなどがあります。
ワーファリンはPT-INRなどのモニタリングを要する薬剤であり、抗菌薬・抗真菌薬併用時にはさらに注意が必要です。こういった観点でも、心臓弁膜症などの問題がない単純なAfであれば、ビタミンKと関係のないDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)を推奨していく流れがあると思います。ワーファリンよりDOACは高価ですが、モニタリングの必要がない、腸内細菌の影響を受けない、抗菌薬でビタミンKのことを考えなくてよい、などは優れた点だと思います。
JAMA Intern Med. 2014;174(3):409-416.より引用
4. 経口抗菌薬と金属イオン (マグネシウム、鉄など)
一部の経口抗菌薬は金属イオン(マグネシウムや鉄など)とキレート(錯体)を作成し、腸管での吸収が低下することが知られています。例として,レボフロキサシンでは酸化マグネシウムと併用することで約20%ほど血中濃度が低下することが報告されています。
クラビット錠 インタビューフォームより引用
金属イオンを含有する酸化マグネシウム、鉄剤などとの併用時は同時服用を避けるなどの対策が必要となります。下記に影響を受ける薬剤一覧を記載します。
分類 | 薬剤名 |
ニューキノロン系 | レボフロキサシン、モキシフロキサシン |
セフェム系 | セフジニル |
テトラサイクリン系 | ミノサイクリン、ドキシサイクリン |
5. マクロライド系と不整脈
マクロライド系抗菌薬は軽度ですがKチャネル抑制作用(アミオダロンもKチャネルブロッカー)を有しており、QT延長が報告されています。単独で発現することは稀ですが、不整脈の既往患者、電解質異常、QT延長を起こす薬剤との併用などのリスクを有する症例への使用で発現リスクが高まることが報告されています。頻用されるマクロライド系抗菌薬としてアジスロマイシン、クラリスロマイシンなどがあげられます。
QT延長を起こす薬剤として抗不整脈薬 (アミオダロンなど)、向精神薬 (ハロペリドールなど)などの報告があり、併用時には注意が必要となります。
皆さんは「せん妄だからセレネース」という思考になっていませんか?せん妄はまずそうなった原因(それこそ感染症発症、低酸素、循環不全など)を考えることが重要ですが、それらを除外して陽性せん妄だからセレネース→QT延長で心停止、はシャレにならないですよね。セレネースを使う時は、入院時の心電図でQTを必ず確認する癖をつけましょう。
N Engl J Med 2012; 366:1881-1890.より引用
まとめ
いかがでしたでしょうか。以外と、「あ、あれやってしまっている!」と思い当たる節がある方もいるのではないでしょうか。
特にICUでは薬剤が複数投与されるので、薬剤を追加する時は他にどんな薬剤が投与されているか確認し、相互作用がないかどうか、副作用がないかどうか、そしてそれが「利益>害」となるかどうか、考えることが大切だと思います。
ICU勤務する薬剤師も、相互作用の視点で薬剤を確認することは重要な仕事だと思います。
オウンゴールを避けるために、知識をつけること、そして日々、薬剤を追加する時に意識していくことが大事ですね。
にしても、サッカーのオウンゴール、本当に辛いんですよね…。PKを外した時と同じくらい辛いんです…。ディフェンダーの宿命ですね。思い出したら辛くなってきたので、この辺で今回は終わりにいたします。