日本大学医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野

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ICU感染ラウンド

ICU INFECTIONS ROUND

ICU感染症ラウンド 第6回 第7回

第6回:2017年5月17日・第7回:2017年5月24日

嫌気性菌

今回は、嫌気性菌についてです。

 

 

嫌気性菌といったら何を思い浮かべますか?空気が嫌いな菌?臨床ではあまりみかけない菌?教科書的には通性嫌気性菌と偏性嫌気性菌に分けられ…とありますが、細かいことはどうでもよく、ICUにおける重症感染症の臨床で注意すべき嫌気性菌対策をお伝えしたいと思います。

 

 

嫌気性菌総論

まず嫌気性菌はどこにいるでしょう?どこにいるかがわかれば、それが関連する感染症は嫌気性菌が関与している感染症になりますね。
大きく分けると、口腔内、腸管内です。胆嚢胆管、膣などにもいます。ですが、臨床的に重要な分け方として、①横隔膜より上 ②横隔膜より下  でわけるのが大切です。なぜか?抗菌薬の選択に関わるからです。臨床の9割以上、横隔膜で分けること以外、嫌気性菌を詳しく知る必要ありません!と言い切ってしまいます。

 

 

嫌気性菌感染症のポイント

嫌気性菌に対する抗菌薬に行く前に、嫌気性菌感染症のポイントはいくつかあります。

 

① 混合感染が多い
② 膿瘍を形成する
③ くさい!
④ 培養されにくい
⑤ 小児は稀

 

①嫌気性菌は単独で感染することが少ないため、混合感染する場合が多いです。つまり、嫌気性菌に効く抗菌薬のみでなく、他の菌のカバーも同時に必要となることが多いということです。例えば市中の胆嚢炎などの胆道系感染症では嫌気性菌だけではなく、腸管内のグラム陰性桿菌をカバーする必要があります。
②膿瘍を形成するということは、抗菌薬治療だけではなく、ドレナージが必要かもしれない、ということです。
③くさい!ことで気が付く場合があります。膿の臭い、口腔内の臭いなど、嫌気性菌感染がある場合は注意です。朝起きた時にくさい(人がいる?)のは一部嫌気性菌のためと言われています。
④好気性菌より嫌気性菌の方が培養されにくいです。また、「嫌」気性菌なので、空気に弱いです。培養を提出するときは空気に触れないようにするのがポイントです。血液培養の嫌気性ボトルには特にシリンジに残った空気を入れないようにしましょう(好気性ボトルも溶血するので空気を入れてはダメですが)。また、意外と知らない嫌気ポータの使い方として、蓋を開けてはいけません。膿をシリンジなどで吸ったら、針で上の蓋から刺して膿を入れるのが正解です。これ意外と知らず、蓋をわざわざとって入れる人を何度も見かけてことがあります。嫌気性菌が死んでしまいますね。
⑤小児は嫌気性菌感染症自体が稀です。だから、菌血症の際、小児ボトルは好気性ボトルしか入れないのですね。ただ、これは実はそうではないかもしれないという意見もあり、今後は嫌気性ボトルも入れるようになる時代も来るかもしれません。

 

 

嫌気性菌に対する抗菌薬

①横隔膜より上、すなわち口腔内の嫌気性菌が関与する感染症に対しての抗菌薬は、アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)やクリンダマイシン(CLDM)を使用します。横隔膜より上の嫌気性菌感染症で最も多いのは、誤嚥性肺炎ですね。本邦の高齢社会では誰もが目にする疾患と思います。口腔内の嫌気性菌には(覚えなくていいですが)、Peptostreptococcus属, Prevotella属、後述するFusobacterium属などがいますが、これらはβラクタマーゼを産生することがあります。誤嚥性肺炎によくABPC/SBTを使用するのは、βラクタマーゼ産生菌がいるから、βラクタマーゼ阻害薬であるスルバクタムとの合剤であるABPC/SBTを使用するのですね。ただ個人的な感触としてですが、ABPC単独で使用しても、誤嚥性肺炎を治療することは一部可能かと思います。βラクタマーゼ産生するのはそう多い割合ではないからです。これは今後の検討が必要かなと思います。
他には今話題になっている歯性感染症です。少しそれますが歯周病が色々な疾患の原因になることがわかってきており、それにも関連しています。我々臨床家が注意するべきなのは、歯の感染から始まるのは感染性心内膜炎も勿論ですが、Fusobacterium が起こすレミエール症候群や降下性縦隔炎など重症感染症を稀に起こすことがある、という認識です。うちのICUでも数例経験がありますが、やはり重症化して治療に難渋した症例を覚えています(発表もしました、織田 美紀,ら. 抗菌薬とデブリードマンで治癒したレミエール症候群の一例:第42回日本集中治療医学会学術集会)。これらにはしっかりとした診断と、抗菌薬のみならずドレナージ治療が必要となることがありますので、詳細は成書にゆずりますが注意が必要です。発表内容が知りたい方がいらっしゃれば、私か織田先生に問い合わせください。

 

②横隔膜より下、は、主にBacteroides がターゲットになりますが、主な中心はBacteroides fragisisです。
Bacteroidesに対してはABPC/SBT、PIPC/TAZなどのβラクタマーゼ阻害薬との合剤が効果があります。なぜか?そうです、Bacteroidesは多くがβラクタマーゼを産生するからです。また、嫌気性菌群に対しては最強の薬であるメトロニダゾールも効果があります。また、Bacteroides単独目的では使用しないですがカルバペネム系も効果があります。
臨床的に大切なのは、横隔膜より下の嫌気性菌、Bacteroidesを意識するシチュエーションです。これは、虫垂炎や胆嚢胆道感染症、憩室炎、下部消化管穿孔などの「Bacteroidesが住んでいる」場所の場合に意識します。逆に言うと、これ以外の場合はあまり横隔膜より下の感染症でも嫌気性菌を意識(=抗菌薬としてカバー)しなくていいのです(例えば尿路感染症とか)。
なお、Bacteroidesは、抗嫌気性菌薬として有名な(?)CLDMの感受性が30%を割ります。だからCLDMは横隔膜より上の嫌気性菌にしか使えないのですね!なお、以前も一部触れましたが私のCLDMの使い道としては、①βラクタムアレルギーのある方の誤嚥性肺炎 ②Toxic shock syndromeなどの毒素産生抑制目的 ③経口治療をしたい誤嚥性肺炎でアモキシシリン/クラブラン酸が使用できない時の経口薬として、です。

 

重症感染症の嫌気性菌でまず知らなければいけない知識はまずはこれくらいと思います。
培養しづらい、培養結果として見かけにくい、普段からみかけにくいからこそ、意識の内に置いておく必要があるのかなと思います。人間どうしても、目に見えるものからやっつけたくなりますからね。
私自身は、見えないものを探すその感覚自体が好きなので、感染症が好きなのかもしれません。昔から宝探しや潮干狩りが好きでした。もしかしたら、何科に行きたいかとか、自分が何がしたいのかとか決める際にも、こういったことで向き不向きがわかるのかもしれませんね。

 

 

どうでもいい話になってきたので今回はこの辺で。

 

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