日本大学医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野

教室紹介

ICU感染ラウンド

ICU INFECTIONS ROUND

ICU感染症ラウンド 第2回

第2回:2017年4月17日

ペニシリンアレルギー
➀ペニシリンアレルギーについて

「既往にペニシリンアレルギーがある人はペニシリン系も、同じβラクタム系であるセフェム系やカルバペネム系もすべて使えないのか?」
という疑問を持ったことがある人は多いのではないでしょうか。ICUでペニシリン系薬に対してアナフィラキシーショックを起こした可能性のある症例からこの議論が今回の回診でありました。
実はまず、ペニシリンアレルギーと自分で言う患者の10-20%しか真のアレルギーではないという文献があります(Salkind AR, et al. The rational clinical examination. Is this patient allergic to penicillin? An evidence-based analysis of the likelihood of penicillin allergy. JAMA. 2001 May 16;285(19):2498-505.)。これは皮膚反応試験を行い、それくらいしかアレルギー反応を示さなかった、という内容です。また、同文献では皮膚反応試験が陰性であった場合には90%以上でペニシリン系抗菌薬に耐容可能とされています。つまり、まず前提として、「自称」ペニシリンアレルギー患者はそもそもペニシリンアレルギーではない可能性が8-9割ということです。また、Ⅰ型(即時型)アレルギーでない場合は、まずペニシリン系薬再投与は安全とされています。つまり、病歴で「ボツボツがすぐに出ましたか?」と即時型かどうかを確認するのが一つポイントになります。
二つ目として、即時型でありかつ重症のアナフィラキシーショックを起こした人、というのはやはり避けた方がよさそうです。少なくとも、再投与する前に皮膚反応試験を行い、陰性であれば上記のように大丈夫かもしれませんが、アナフィラキシーショックまで起こしたということになれば、他の抗菌薬を使用できるのであればその方が無難と考えた方がよいでしょう。
では、セフェム系はどうか?ということに関しては、文献にもよりますが上記文献だと、ペニシリンに対して皮膚反応試験も陽性であった(おそらく)「真の」ペニシリンアレルギー患者で、セフェム系のアレルギーは5.6%に起こった、とあります。教科書的にも15%程度の交差反応がある、という記載をみかけますので、それくらいの割合だと判断します。セフェム系の中でも第一世代セフェムは少しアレルギー割合が高まるという報告もあります。
これをどう考えるべきかは人によると思いますが、私個人的には、アナフィラキシーショックやTENなどの重症薬疹まで起きた重篤なペニシリンアレルギーの人にはセフェム系も避けた方が無難、もしくはセフェム系投与前に皮膚反応試験までやって確認、という解釈が現実的かと思います。逆に、「自称」ペニシリンアレルギーでしかも遅発性の発疹程度であった場合は、セフェム系を投与してもまずあまり問題にならないだろうと思います。
ということで、「自称」ペニシリンアレルギー患者にはアレルギーが起こったときの症状、重篤さなどを問診で聞くのが非常に重要であると考えます
ICUにいる患者は我々の前でアナフィラキシーショックを起こした可能性のある患者なので、上記からすると、セフェム系まで避けるもしくは皮膚反応試験を行う、ということが現実的かと思います。

 

 

➁MSSAにクリンダマイシン(CLDM)を使用するときの注意点

上記のように「本物の」ペニシリンアレルギーがある時の(MRSA以外の)グラム陽性菌、(横隔膜より上の)嫌気性菌に対する治療として、CLDMはいい選択です。ただしCLDMはMSSAの感受性結果がSであっても使用できない場合があり注意が必要です。MSSAに対してCLDMがSであってもエリスロマイシン(EM)がRであった場合にはCLDMが効かない可能性があります。上記感受性パターン(CLDM S、EM R)をみた時には、細菌検査室にD-test(D-zone test)という検査を行うように依頼し、D-test陽性である場合にはCLDMは使用できないので注意が必要です。
少しそれますが、最近、メトロニダゾールを横隔膜より上の嫌気性菌狙い(誤嚥性肺炎など)に使用するケースを見かけますが、それならばCLDMの方がよいと思います。メトロニダゾールはほとんどすべての嫌気性菌に効いてしまうので、横隔膜より下、つまり腸管内の「善玉」嫌気性菌にも聞き、腸内細菌叢を変化させてしまう可能性があるからです。逆にいうとメトロニダゾールは、横隔膜より下の嫌気性菌をターゲットにしたときに、真の効果を発揮すると言い換えられるでしょう。NST通信にもありましたが、腸内細菌叢の変化は腸管栄養という観点でもなるべく避けた方がいいかと思います。やはり栄養と感染は切っても切れないですね。以前、NSTチームが栄養と感染を車の車輪に例えていたのを思い出します。車輪は二つなければ走れない、ということです。

 

 

尿路感染症(UTI)の考え方

血液培養と尿培養が違う菌が出ている患者がおり、その患者をUTIと決めるのは慎重にした方がよい、という議論がありました。
「UTIは最後に診断するもの」です。尿混濁しているから、尿白血球数が上がっているから、細菌尿があるから、UTIだ!と決めつけると、他に感染源があり痛い目をみることがあります。こういった所見だけでUTIと決めつけず、病歴、身体診察、画像、血液検査から肺炎、肝胆道系感染含めた腹腔内感染、髄膜炎など、他の細菌性感染症を除外した上で、最後に診断する姿勢が重要です。
これについて詳しくは、「ICU感染制御(仮)」という本のCAUTI(カテーテル関連尿路感染症)部分を執筆したので、それが出た時(おそらく今年中)に読んでもらえたら嬉しいです。

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