日本大学医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野

教室紹介

ICU感染ラウンド

ICU INFECTIONS ROUND

ICU感染症ラウンド 第25回 第26回

ペニシリンアレルギー、セフェムアレルギーではすべてのβ-ラクタム系抗菌薬は使用できないのか?~構造式の観点から~(ペニシリンアレルギー = ドラクエ呪文なし!?)
1. ペニシリンアレルギー、セフェムアレルギーについて

抗菌薬の中でもβ-ラクタム系は最もアレルゲン性が高い薬剤群といわれています。特にペニシリン系は使用患者全体の15.6%で皮疹などが発現したとの報告もありその頻度は高いとされています1)。その一方で、以前のコラムでもあったようにペニシリンアレルギーと自分で申告した患者の10~20%しか真のアレルギーではないとの報告もあり、そのアレルギーの妥当性を評価することが重要となります。主なアレルギー反応の機序にはIgE抗体を介するⅠ型アレルギー(即時型アレルギー)や細胞性免疫を介したⅣ型アレルギー(遅発型アレルギー)などが関連していると考えられています。特にⅠ型アレルギーでは抗原曝露後、数分から数時間で発症し蕁麻疹や血管浮腫、最重症であるアナフィラキシーショックを引き起こすことがあり重大な注意を必要とします。しかし、このI型アレルギーは年月と共に過敏性は低下し5年以内に50%、10年以内に80%の患者の過敏性が消失するといわれております2)。つまり、以前にアレルギーがあったとしても、長期間使用しなければ再度使用できる可能性もあります。
日本の添付文書ではペニシリンアレルギーの既往がある場合、同系統の使用は原則禁忌となります。またセフェム系も交差反応を示すと考えられており、その使用が控えられることが多いです。その理由はペニシリン系、セフェム系の化学構造が類似しているためです。しかし、ペニシリン、セフェム系などのβラクタム系が使用できなくなると、重症感染症に対する武器が相当減ってしまいます。ドラクエでいうと、呪文無しでラスボスに挑む感じでしょうか?
これに対してICUセッティングでどう考えていけばよいか?実際どのような抗菌薬で交差反応が起こりやすいのか、まずは構造式から考えていきたいと思います。

 

 

2. 化学構造式から考えるアレルギー回避の可能性

βラクタム系抗菌薬には,ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、モノバクタム系、ペネム系があり、いずれもβラクタム環を有しています。ここでは使用頻度の高いペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系について構造式を交えて考察していきたいと思います。
ペニシリン系抗菌薬アレルギーの交差性は6 位側鎖構造の依存度が高いと言われています。つまり6位に類似構造をもつペニシリン系抗菌薬は高い交差性を示すということです。具体的な例をあげるとアモキシシンとアンピシリンは交差性が高く、構造式が類似していないアンピシリンとピペラシリンは同じペニシリン系でも交差性が低いと考えられています。また、セフェム系とでは7 位に類似構造をもつセフェム系に交差性が存在すると考えられています。具体的にはアンピシリン、アモキシシリンはセファクロル、セファレキシン、セファドロキシル、セファトリジンと構造式が似ており注意が必要です。
セフェム系抗菌薬同士も同様の考え方が出来ます。アレルギーの交差性は、母核構造にも一部依存しますが、主に3位や7位に類似構造をもつと高い交差性を示すと考えられています。ここで問題となるのは3位が異なるからといっても7位が類似構造を持てば交差性は高くなるという点です。具体的には第3世代(セフタジジム、セフトリアキソン、セフォタキシム)と第4世代(セフェピム、セフォプラゾン)では7位の側鎖構造は同じ、もしくは類似構造であり避けることが望ましいとされています。つまり、第3世代でアレルギーが出たから第4世代に変更ということは避けなければいけません。ドラクエ的にはメラミが効かない敵(例、メタルスライム)に、同系統のメラゾーマを使うということは(どうせ効かないので)避けた方がいいのと似ていますね。
カルバペネム系はペニシリン系と構造が類似しており以前は交差性が高いといわれていました。しかし近年の報告ではペニシリンアレルギーがあると申告した患者のうち、メロぺネムまたはイミペネム/シラスタチンの投与でアレルギーが起きたのは6~10%程度との報告もあり交差性が低いことが示唆されています3)。もちろん、可能性が0ではありませんのでリスクベネフィットを考えての投与が必要です。

 

*βラクタム環をもつ主な抗菌薬

 

*ペニシリン系抗菌薬の交差性

 

*ペニシリン系とセフェム系抗菌薬の交差性

 

このように抗菌薬アレルギーは側鎖の類似構造からアレルギー発現の可能性を推定することが出来ます。以下では、この機序を解析し独自のアレルギー表を作成した論文を紹介します4)

 

 

この理論に基づき筆者らは以下のようなβ-ラクタム系抗生剤の交差アレルギー表を作成し臨床の現場に取り入れているそうです。

 

 

 

3. 米国の抗菌薬アレルギーの考え方

アメリカの小児科学会の推奨では、小児においてセフェム系抗菌薬に対する重篤なアナフィラキシーはまれであり、ペニシリンアレルギーの小児に対して共通の側鎖を持たないセフェム系の投与は可能とされております。同様に、アメリカの小児科学会の見解では、側鎖の異なるセファロスポリン系の投与は可能とされています。しかし日本の添付文書では基本的にはセフェム系の抗菌薬にアレルギーの既往がある場合は他のセフェム系抗菌薬の投与も禁忌となっているため、投与するのはなかなか難しいところです。しかしICUのような重症患者が多い病棟で、βラクタム系抗菌薬の選択ができないことは重症感染症に対して戦える武器がだいぶ減ります。メラゾーマが効かないからって、マヒャドもイオナズンもベギラゴンもバギクロスもマダンテも使わないようなものです( 今ではマヒャドデスなんていうのが最上級ですが…)。ドラクエ呪文無しでラスボスは大分きついですよね。

 

 

4. まとめ

ICUセッティングではβラクタム系全部使わない!というのは治療が狭まります。もちろん、βラクタム系以外のニューキノロン系、アミノグリコシド系、ST合剤、クリンダマイシンなどをうまく使いこなす技術も必要です。ただ、アレルギーがだいぶ昔だ、ペニシリン系アレルギーで具体的に何の薬かわからない、アレルギー反応として発疹が少し出た程度だ、ということであれば、上記考え方より使用できる可能性は高いと考えられます。これらをふまえ、βラクタム系薬にアレルギーがある人にβラクタム系の投与が必要な場合は、側鎖の類似性の少ない抗菌薬を選ぶこと意識すること、困ったら専門家に相談することが重要だと思われます。

 

参考文献

  1. Arch Intern Med.2000;160:2819-2822
  2. J Allergy Clin Immunol.1999;103(5):918
  3. N Engl J Med. 2006:354(26):2835-7.
  4. Japanese Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences 2008:31(2):299-304

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