日本大学医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野

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ICU感染ラウンド

ICU INFECTIONS ROUND

ICU感染症ラウンド 第17回 第18回

第17回:2017年8月23日・第18回:2017年8月30日

ヘルペス脳炎&アシクロビル腎症について

アシクロビルはICUではヘルペス脳炎に対して投与することが多いです。
治療をする、しないでは転帰にとても差がありますので、髄膜脳炎疑いなどで投与する機会が多いと思います。しかし、アシクロビルの投与方法によっては腎障害を起こすリスクをあげてしまうので、今回の内容としては、ヘルペス脳炎についてと、どう投与したらアシクロビル腎症を減らせるか、という内容となります。

 

 

ヘルペス脳炎について

ウイルス性脳炎の中では最も多く、かつ最も重篤です。
1週間以内の経過で、発熱(高頻度)、頭痛(70%以上)に加え、側頭葉症状を中心とする症状として見当識障害、人格変化(75%以上)が起きてきます。急に進む嚥下困難、片麻痺、異常感覚、幻臭などの局所的な症状も比較的多い(30%)です(Fodor PA, et al. Atypical herpes simplex virus encephalitis diagnosed by PCR amplification of viral DNA from CSF. Neurology. 1998 Aug;51(2):554-9.)。このため、まず病歴聴取が大切です。
検査は、髄液PCRが最も有用ですが、発症直後1~2日はPCR偽陰性となることもあるため、上記病歴などから可能性が高ければ、再検査が必要です。アシクロビル治療を開始しても1週間以内であれば髄液PCRが陽性になる可能性は高いそうです。
MRIは感度がよいため、MRI正常であれば可能性が非常に低くなるので除外に使えます。私は今まで知らなかったのですが、頭部CTでも側頭葉付近に局在するmass effectをもったLDAが、1/2~3/4であるそうです!ICUではすぐにMRIというわけにいかないケースも多々あるので、ヘルペス脳炎疑いの時は頭部CTをしっかり確認する必要がありそうです。
治療については、ヘルペス脳炎を疑えば確定診断の前にアシクロビル点滴投与です。成人は10mg/kg静注(高齢者では7.5mg/kg)、1日3回、21日間です。この際、生食250mlで溶き、2時間かけて投与することが重要です。小児や新生児などは15mg/kg, 20mg/kg投与が必要となることもありますが、高用量投与は後述するアシクロビル腎症のハイリスクとなるため注意が必要です。
転帰についてです。報告により色々ですが、無治療の場合は60~80%程度死亡し、アシクロビルを投与すると15%程度となります。かつ、アシクロビル投与が入院から2日以上かかってしまうことが転帰不良の独立した危険因子になる(Raschilas F, et al. Outcome of and prognostic factors for herpes simplex encephalitis in adult patients: results of a multicenter study. Clin Infect Dis. 2002 Aug 1;35(3):254-60.)ため、早期投与が重要です。

 

上記をまとめると、
① 病歴から疑う
② 疑えば頭部CT、髄液PCR
③ 疑えばアシクロビルを(その日のうちに)投与する

 

ですね。
ただ、副作用がありますので、病歴から可能性が低い(熱性けいれんで来たけどすぐに意識改善した、発熱以外それまで元気であった、など)のであれば、やみくもにアシクロビル投与するのは推奨できません

 

 

アシクロビル腎症について

アシクロビル静注は腎障害を起こしますが、投与方法でリスク回避できますので、その方法についてです。
機序は静注製剤では尿細管での結晶析出により腎障害となります。
リスクや避けるための方法です。

 

① 生食250mlで希釈する。
② 2時間で投与する。
③ リスクファクターがある場合は、投与の必要性をより慎重に判断する(特に小児)。

 

①についてですが、100mlで希釈したものよりも250mlで希釈したものの方が、有意に腎障害が少なかった、という文献(Dubrofsky L, et al. Interdisciplinary Systems-Based Intervention to Improve IV Hydration during Parenteral Administration of Acyclovir. Can J Hosp Pharm. 2016 Jan-Feb;69(1):7-13.)があります。②にも関連するのですが尿細管で析出するので、腎血流量を保つということが理論的には大切であり、脱水状態にしないようにという意味合いが大きいです。ということで250mlとさせていただきました。臨床的にどうしてもintakeを絞らなければいけない症例や必ず250mlにせよ、というわけではありません。
②についてですが、報告により1時間以上、1-2時間までと様々ですが、急速投与が結晶析出しやすく、時間をかけた方が理論的に結晶析出は少ないので、2時間と統一いたしました。これも必ず、というわけではないのですが、投与時間に関しては何のリスクもないので、2時間でいいと思います。
③についてですが、小児では、アシクロビル腎症は、8歳以上、15mg/kg/dose以上、セフトリアキソンの同時投与で起こりやすいという報告(Rao S, et al. Intravenous acyclovir and renal dysfunction in children: a matched case control study.  J Pediatr. 2015 Jun;166(6):1462-8)があります。今回の症例は8歳以上かつ量が20mg/kg/doseでしたので、ハイリスクでした。髄膜炎の時はセフトリアキソンも投与するケースも多いと思うので、注意が必要です。

 

ということで、工夫で避けられる副作用であれば避ける方がいいですね。

 

大切なのは、必要かどうかを見極める思考力・診断力と、投与すると決めたならば副作用を避ける努力を最大限した上で早期投与する、ということですね。

 

 

今回はこの辺で失礼します。

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