日本大学医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野

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ICU感染ラウンド

ICU INFECTIONS ROUND

ICU感染症ラウンド 第14回 第15回

第14回:2017年7月19日・第15回:2017年7月26日

ニューキノロンについて

今回は、ICUにおけるニューキノロン系抗菌薬についてお話しします。内服でもバイオアベイラビリティに優れていますが、本コラムがICUセッティングであるため主に点滴のニューキノロン系についてお話しします。

 

 

ニューキノロン系は、種類によって多少の差異はあるものの、グラム陽性球菌(MRSA×)、グラム陰性桿菌(耐性化が問題)、緑膿菌などのSPACE(効かないものもある)、細胞内寄生菌に効果がある広域抗菌薬です。
以下、ICUセッティングでの考え方です。

 

 

①重症肺炎で非定型肺炎(レジオネラ、クラミジア、マイコプラズマ)も可能性がある場合

肺炎の際、非定型肺炎をカバーするかに関しては色々な意見がありますが、重症である肺炎(人工呼吸管理が必要など)であれば肺炎球菌などの定型肺炎に加え、非定型肺炎もカバーしてよいと考えます。重症肺炎に対してはニューキノロン系という選択肢もありです。2016年の当ICUアンチバイオグラムでは、肺炎球菌やインフルエンザ桿菌のニューキノロン感受性は100%でした。
ただし、私は使用するならばβラクタム+マクロライド系が優先と考えます。
なぜかというと、肺炎の時に注意しなければならないのが、「結核」の除外です。結核に「中途半端に」効いてしまうというのは、ある意味で問題なのです。結核診断前にニューキノロンが投与されてしまった場合は診断が遅れる(Wang JY, et al. Thorax. 2006;61:903-8)、死亡リスクが上がる(Van der heijden YF, et al. Int J Tuverc Lung is. 2012;16:1162-7))、という文献があります。結核は色々な像をとるので、結核でない、と最初から言い切るのはかなり難しいです。重症肺炎に使用する際は、結核がないかどうか?と必ず考えて、必要ならば抗酸菌塗抹・培養を提出した上で使用しましょう。

 

 

②βラクタムアレルギーがあり、敗血症 緑膿菌などSPACE(セラチア、緑膿菌、アシネトバクター、シトロバクター、エンテロバクター)の重症感染症が考えられる場合

βラクタムアレルギーがある場合、ニューキノロン系はスペクトラムから、緑膿菌などSPACEの感染が疑われる重症感染症のICUセッティングでは重要な選択肢の一つです。緑膿菌感染が疑われてβラクタム薬が使用できない場合は、ニューキノロン以外にアミノグリコシド系、モノバクタム系(アズトレオナム)、(おまけの最後にテトラサイクリン系)くらいしかありません。 2016年の当ICUアンチバイオグラムでは緑膿菌のシプロフロキサシン感受性98%、レボフロキサシン感受性94%です(以前よりだいぶ回復しました)。SPACE全体も当ICUでは感受性は良いです。
ただし、真のβラクタムアレルギーは少ないと言われており、本当にβラクタムアレルギーかどうかについてはICU感染症ラウンド第2回のコラムをご参照ください。

 

 

ICUセッティングでは使用しづらい、できない場合

他に使われることがあるものとして、細菌性腸炎や尿路感染症、腹腔内感染症などがありますが、ICUセッティングではほとんど出番がないと考えます。
また尿路感染症や腹腔内感染症では、腸内細菌(大腸菌)の耐性化が進んでいるから出番なしです。全国的なデータで耐性化が進んでいますが、当院は大腸菌のシプロフロキサシン感受性69%、レボフロキサシン感受性69%です。これでは30%以上外してしまうため、重症感染症のみならず、一般的な細菌感染症にも使用できないです。
細菌性腸炎の重症である場合、サルモネラなどが原因となりますが、サルモネラはニューキノロン耐性化が進んでおり注意が必要です。サルモネラに対して使う際には別の検査が必要なため、細菌検査室に問い合わせをしてください。
大腸菌などの腸内細菌群、サルモネラにここまで耐性化が進んでしまったのは、安易な外来でのニューキノロン系内服処方によるものです。外来の話なので詳細は省略しますが、ニューキノロン系を外来で使用するセッティングはあまりないと思われます。尿路感染症で使用するには少なくとも緑膿菌などのSPACEが証明あるいは可能性が高い状況でなければ、緑膿菌に効果のあるニューキノロン系を使用する意義がそもそもないです。また、前述のように腸内細菌群に対する感受性は悪いので、腸内細菌をターゲットにするのも意義がありません。ニューキノロン系に限りませんが、尿路感染症は、薬によって尿中濃度が血中濃度よりも多くなることがあるため、「たまたま」効いてしまうことがあります。しかしこれは「たまたま」であって、他の薬でも効いた可能性があることに注意してください。

 

なんでもそうですが、「たまたま」よくなることを成功と思ってしまうと、思考停止になってしまいそれ以上ものを考えなくなってしまいます。「次もこれでいいや」の思考回路になり、次はそれではダメなことがあります。よくなっても、何故よくなったのかを振り返ることは大切だと思います。また、「たまたま」悪くなることはなく、そこには理由があるのでやはり考えることが重要です。

 

サッカーでいうと、「たまたま」ゴールしたは、フォワードとしては評価が高まりませんね。「たまたま」ゴールされたは、ディフェンダーとしては必ず反省すべき点がありますね。私はどちらかというとディフェンダーのことが多かったので、ゴールされた時はいつも辛い思いをしていましたが、振り返るチャンスは多かったのかもしれません。

 

 

サッカーの話になると長くなるので今回はこの辺で。

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