日本大学医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野

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ICU感染ラウンド

ICU INFECTIONS ROUND

ICU感染症ラウンド 第58回 第59回 第60回

第58回:2018年10月10日・第59回:2018年10月31日・第60回:201811月14日

ビール樽のイメージ!重症患者の抗菌薬投与量の考え方part 1

医師にとって薬は武器です。薬がなければほとんどの医師は無力でしょう。けれど、我々医師はそんな武器の特性(薬理学や薬物動態学)をよく知らずに使っていませんか?私自身も研修医の時、「痛みにはロキソプロフェン、痰切りはカルボシステイン」などと、まるで国家試験の一対一対応問題のように覚えていた時期がありました。今考えると恐ろしいですが、薬は武器であり同時に副作用を持つ毒にもなりうります。うまく使いこなすためには、薬理学、薬物動態学を知る必要があります。
けれど、タイトルを「薬理学/薬物動態学の考え方」にすると(なんだかわかりにくいな…。)と敬遠してしまう気持ちもわかります。私自身が最初そうだったので。
このため二回にわけて、重症患者の抗菌薬投与量の考え方を、「ビール樽」のイメージで伝えていきます。

 

 

キーワードは

 

①ビール樽を早く満たせ!(分布容積:Vd)
②ビール樽の大きさの変化に対応せよ!(重症時のVdの変化)
③ビール樽を常に満タンにせよ!(クリアランス:CL)
④ビール樽の注ぎ口の変化に対応せよ!(重症時のCLの変化)

 

前半は、①②ビール樽の大きさ、すなわち分布容積:Vdの話です。

 

 

①ビール樽を早く満たせ!(分布容積を早く埋めろ!)

ビール樽は、ビールがいっぱいに満ちていないと売れませんね。同様に抗菌薬も、身体に満ちていないと細菌に効きません。投与初回では、まず、「ビール樽を満たす」ための抗菌薬の量が必要なのです。「ビール樽10L」を満たすには10Lの補充でいいけれど、2Lずつ6時間起きに補充したら24時間かかってしまいますね。これを満たすのが早ければ早いほど抗菌薬の効果がきちんと出せるのです。
この「ビール樽の大きさ(10L)」が「分布容積 = Vd」です。
ビール樽の大きさはまちまちです。同様に抗菌薬によって分布容積はまちまちです。「ビール樽10L」であれば10Lの補充でいいですが、「ビール樽50L」ならばそのままでは5日かかってしまうので、1回50L補充にすればよいですね。
まずは「ビール樽を早く満たせ!」なので、腎機能障害などがあって③④で説明するクリアランスが低下していたとしても、初回投与量は最大投与量で、場合により2回目、3回目も通常量で投与する理由がおわかりかと思います。とはいえ、②のように重症でなく、ビール樽(Vd)が小さい、βラクタム系(例:アンピシリン/スルバクタム(Vd 12L)、セフェピム(Vd 10L)であれば、初回投与量を最大投与量にすれば、多くの抗菌薬がビール樽(Vd)を満たすことができます。逆にビール樽の大きいテイコプラニン(Vd 50L)であれば、満たすためにローディング(初期負荷投与、初期の大量投与)が必要な理由もお分かりかと思います。
これからわかる大切なことは、初回投与量はフルドーズであり、少なくとも初回投与量を減らす状況ということはない、ということです。

 

 

②ビール樽の大きさの変化に対応せよ!(重症時のVdの変化)

重症時、特に感染症でいうと敗血症の場合は、ビール樽が大きくなります。①のようにビール樽は満たさなければいけないので、初回投与量を増やして対応が必要な場合があります。
例えば、ビール樽が10L増えたらどうなるでしょうか?2つの場合を考えていきます。
1つ目は、「50Lのビール樽が10L増えた場合」です。1.2倍です。割合としてあまり増えないため、そこまで強く意識する必要はないです。つまり、Vdが元々大きな抗菌薬(ニューキノロン系、マクロライド系)は影響を受けにくいので、投与量を変える必要はありません。
2つ目が問題です。「10Lのビール樽が10L増えた場合」です。2倍です。この場合は倍になるので、強く意識する必要があります。つまり、Vdが元々小さな抗菌薬(βラクタム系)は影響を受けやすいわけです。つまり、過小投与となりやすいのは、敗血症でも頻用されるβラクタム系なのです。
ここからわかることは、重症であればβラクタム系は1回投与量を最大投与量(場合により増やす)で投与する、ということです。少なくとも初回投与量を減らす状況ということはない、ということは、①もそうですが、②でもそう言えますね。
保険の問題もありますが、重症になればなるほどこういう概念があることを理解し敗血症診療に臨む必要があります。

 

なぜビール樽が大きくなる(=分布容積が増える)かというと、血管透過性亢進と輸液負荷の2点が主な要因です。敗血症だけでなく、血管透過性亢進と輸液負荷を行う疾病、例えば急性膵炎や外傷でもビール樽が大きくなります。ただ、他の疾病での薬より敗血症の抗菌薬は治療において非常に大きなウェイトを占めるため、最も意識すべきは抗菌薬ということは異論がないでしょう。

 

 

次回後半は③④ビール樽を常に満タンにせよ!(クリアランス:CL)の話です。

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