教室紹介
ICU感染ラウンド
ICU INFECTIONS ROUND
ICU感染症ラウンド 第29回 第30回
第29回:2017年12月6日・第30回:2017年12月14日
Candida(前半)診断検査
今回は真菌についてお話したいと思います。ICUなので、「深在性真菌症」と考えてください。その中でも多くを占める、侵襲性Candida感染症とそれに対応する抗真菌薬への考え方をお伝えします。前後半2回に分けてお送りします。前半は、診断や検査での考え方、後半は抗真菌薬の使い方です。今回は前半になります。
背景
まず、ICUなどの重症患者が侵襲性Candida感染症にかかると、どれくらいリスクがあるのでしょうか?
(Wisplinghoff H, et al. Clin Infect Dis 2004;39:309-317.)
少し古い文献ですが、1890名のCandida血症のデータで、Candida血症になった時のCandida菌種別の死亡率です。
…めちゃくちゃ高いと思いませんか?一番右の棒グラフが全Candida血症患者ですが、約40%亡くなるわけです。これは、少し前の敗血症性ショックやARDSの世界的な死亡率と同じくらいです。これは、真菌の毒性そのものもありますが、それ以上に宿主の問題が大きい(免疫抑制、背景に重症患者が多い、など)があげられます。いずれにしてもCandida血症をみたら、「死ぬかもしれない」と考える必要がある、ということですね。
診断
では、どのような人がどのようなタイミングで侵襲性Candida感染症になりやすいのでしょうか?詳細は「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014」(http://www.mycoses.jp/guideline/)などを参考にしていただければと思いますが、リスクをただ羅列すればたくさんあります(広域抗菌薬投与、ステロイド薬投与、免疫抑制薬投与、高齢、化学療法、悪性腫瘍、Candidaの定着、制酸薬投与、中心静脈カテーテル、低栄養 etc…)。リスクを考えることはもちろん大事なのですが、実臨床でリスクを考えよう!と考えても、リスクが多い人が必ず侵襲性Candida感染症になるわけでもなく、リスクが少ない人が侵襲性Candida感染症にかからないというわけでもない、という側面もあります。
その上で、一つCandida血症に関して参考になるデータです。上記と同じ文献です。
(Wisplinghoff H, et al. Clin Infect Dis 2004;39:309-317.)
これは、入院してから(ICU単独ではありません)菌血症になるまで、どんな菌が何日目に(真)菌血症になるかを表したものです。他の菌も参考になりますが、Candidaは22日目前後に多いことがわかります。Klebsiellaは日本ではもっと早い印象があるなど、海外の論文なのであくまで参考なのですが、いずれにしても「入院して少したってから」という感覚が大事です。入院して数日で真菌血症になる可能性は低いということです。逆にいうと、長くなってくれば、真菌血症の可能性は上がってくると言えます。ICUでは22日よりもう少し早いでしょう(リスクを抱える重症患者が多いため)、「入院して少したってから」ということに加え、侵襲性Candida感染症を鑑別にあげる上で、ICUで私が大事にしている感覚は、「すごく急激に悪化するわけでもない、しかしジワジワと悪くなっている」や「元々の病気のタイムコースなら良くなってくるはずのタイミングで、改善がなく、横ばい」です。一般細菌の敗血症や菌血症であれば、悪くなる間隔は早いです。数時間でバイタルサインがくずれ、あれよあれよという間に悪化するという印象です(これを早期にどれだけ捕まえられるかが優れたICU医だとも思っています)。しかし、侵襲性Candida感染症の時は、一般細菌よりもゆっくり悪くなることが多いです。よって、最初は気づきにくい、ということにも注意が必要です。
検査
上記のようなタイミングで疑ったら、①血液培養2セット ②β-Dグルカン提出 ③ソースコントロールのための感染源検索(中でもカテーテル、術創部)のチェックをします。
①はいわずもがな必須です。ちなみに、血液培養は鼠径から採血するとCandidaも含めコンタミネーション(汚染)率があがるので、できるだけ上肢から採取するのが大切です。なお、Candida血症であった場合は血液培養の陰転化確認が必要になります。陰転化から最低2週間は抗真菌薬投与が必要です。また、Candida眼内炎になるので眼科コンサルトが必須となります。
②は議論もありますが、やはりICUで侵襲性Candida感染症を疑ったら必須でしょう。カットオフ値をどこでとるかという問題やCandidaに特異的ではない、ということが問題ですが、ハイリスク患者で疑った場合(検査前確率が高い場合)、上昇があるかどうかは抗真菌薬投与を行うかどうかの目安にはやはりなります。Candida感染に対して、感度77%、特異度85%という報告があり、検査法を改善することで以前よりは少し検査特性がよくなりましたが、現在は概ねこの程度でしょう。ICUでのハイリスク患者で複数回測定し数値を追うこと(ハイリスクであれば1週間に1,2回程度)で、早期に拾いあげられることもあります。
③これが抜けることが以外と多いですが、カテーテル、特に中心静脈カテーテル感染が多いことも大切です。また、術創部感染も多いので、中心静脈カテーテル、尿道カテーテルが挿入されていないか、術創部感染は問題ないか、などをチェックすることは必須です。
ここまでが診断、検査の範囲になります。次回は抗真菌薬について述べていきたいと思います。