教室紹介
ICU感染ラウンド
ICU INFECTIONS ROUND
ICU感染症ラウンド 第19回 第20回
β-ラクタム系抗菌薬の PK/PD について
今回は、臨床で汎用されるβ-ラクタム系抗菌薬の PK/PD についてお話させていただきます。β-ラクタム系抗菌薬が、なぜ投与回数が複数回必要なのか、組織移行性をふまえて解説して行きたいと思います。
1. β-ラクタム系抗菌薬の PK/PD について
図1. β-ラクタム系抗菌薬はTime above MIC (TAM %)が重要
PK/PD の概念に関しては、VCMのPK/PDコラムで記載しているので割愛しますが、β-ラクタム系抗菌薬は血中濃度が最小発育阻止濃度 (MIC) を超えている割合 (Time Above MIC: TAM %)が効果と相関を示す時間依存型です (図1)。抗菌薬のPK/PDは米国のCraig博士らが精力的に研究を行い、各種抗菌薬がどのパラメータに依存するか報告しています。図2はキノロンとβラクタムの一回投与量を変化させると菌量がどのように変化するか観察した報告です。キノロンは1 MIC 以上において濃度依存性に菌量の減少が認められますが(濃度依存性型)、β-ラクタム系では濃度を増加させても菌量の減少が頭打ちになっているのが分かります。つまり、時間依存型あるβ-ラクタムは1回投与量を増加させても効果を上げることはできないことがわかります。
図2. 抗菌薬における濃度依存型と時間依存型の違い
Clin Infect Dis 26 : 1―10, 1998.
前述した通り、β-ラクタム系抗菌薬はTAM %が臨床効果と相関します。それでは、どのようにすればTAM %を上げて、より有効な投与ができるかと言いますと、1日投与量は同等であれば、投与回数を増やしたほうがより高いTAM %が得られます(図3)
図3. 投与回数によるTAM%の変化
2. 耐性株(MIC値の上昇)は臨床効果が得られない?
現在、様々な研究が行われており、β- ラクタム系抗菌薬がグラム陰性桿菌に効果を示すTAM %は40%以上だと言われています。図4は大腸菌や緑膿菌にTAM %を増加させると菌量がどのように変化するか示した報告です。TAM %が40%になると急激に菌量が低下することが分かると思います。
図4.グラム陰性桿菌とTAM% (% Time above MIC T>MIC)の関係
Clin Infect Dis. 2003 Jan 15;36(Suppl 1):S42-50.
この研究から分かるように目標のTAM %がありますが、同じ投与量であれば細菌のMICが高くなるほどTAM %が低くなり、目標に到達できなくなることが分かります。つまり、感受性がSであってもほぼ耐性株であるケースもあるため、細菌検査の解釈には注意がいります。この点については、違うコラムで記載していこうと思っていますが、多くの場合は感受性がSで、十分な投与量・投与間隔(参考:サンフォード、救命センターでの投与量など)で投与を行っていれば目標のTAM %を達成できますので安心して下さい。
3. β-ラクタム系抗菌薬の持続投与について
最近では、持続投与を行うという選択も話題になっています。TAM %は持続投与ですと100%が得られますので理論的にはよく効きそうです。しかし、実際には様々な研究が報告されていますが、持続投与が有効であるという一定の見解はでていません(Clin Infect Dis.2013; 56:236-244)(Am J Respir Crit Care Med.2015; 192:1298-1305)。難治症例では効果があった等の報告もありますので、現時点では治療のオプション的な位置づけになります。薬剤師的な視点から見ると、抗菌薬の安定性や薬剤中止に伴う残破棄の問題等もあるため現状ではお勧めできません。